Behind the Story

12/28/2021
STREET FIGHTER 5
CHAMPION EDITION
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  • ときど
  • モノにしたって感覚は今はないですね。『獣道』の借りは『獣道』でしか返せないんだなって
  • // Chapter 1
  • 「試合中は特に思うことはなかったんですけど勝負に必死だったんで。終わってみて取り組み方が全然相手よりもぬるかったなと」
    2018年3月「獣道2」におけるメインイベント「ウメハラ(ガイル)vsときど(豪鬼)」。そこでときどはウメハラに10-5で敗北を喫した。

    前年の2017年の大会成績は絶好調。MVPというタイトルがあるのであれば満場一致でときどが選出されただろう。その流れからの「獣道2」。ときどは精一杯の準備をした「つもり」だった。
    「それもかなり浅はかな『つもり』ですよね。オレは気付けたはずなんですよ、もっと良いやり方があるって。負けてちょっとして気付いたんですけどね、そういえばって(笑) もっとシビアに考えられたんじゃないかなって思いましたよね。終わってからですけど。オレほんとアホだなあって思いましたもん」

    大会を勝ち抜いてきた前シーズン。どこかその延長でときどは努力をしてしまっていた。シーズンを通して過酷なトーナメントを勝ち抜くには様々な選手に対して受けられるだけの広さと厚みが必要だ。それは「獣道」のようなワンマッチとはそもそものアプローチが異なる。

    一人の相手に切り込むウメハラの深さ。2012年「ウメハラ(リュウ)vsインフィル(豪鬼)」。2015年「第5期 TOPANGAリーグ」における「ウメハラ(殺意リュウ)vsももち(ケン)」。いずれも徹底した対策をしていたのを間近でときどは見ていた。
    「反省するポイントが結構あって。ウメハラさんから対戦相手が決まった時のマークの仕方とかをオレは当時見せてもらってたんですよ。練習パートナーから育てていくみたいな。それを見ているにも関わらずオレはそこを何かすっ飛ばしちゃったていうか。どうしようもなかった、っていうところまでオレ出来てなかったんじゃないかなってのが、凄い悔いですよね。単なるサボりになっちゃってるんで」

    本人曰く「殴られないと分からない」タイプ。しかしそれは「殴られれば分かる」ということでもある。
    「獣道2」での手痛い敗北を貴重な糧にして臨んだ2020年「TOPANGAチャンピオンシップ」。総合優勝がかかった最終戦でときど(豪鬼)はウメハラ(ガイル)と雌雄を決する機会を実力で掴み取った。大一番での二人の対決はときど本人はもちろん、視聴者からも「獣道2」におけるリベンジの機会と受け取られた。

    「向こうのやり方、どういうことやってたか。より深く理解するための態勢から考えてこっちは臨みましたね」
    ウメハラ対策のシミュレーションに血を通わせるためのパートナーには若手のひぐちを抜擢。「仕事として」協力を仰いだ。
    「パートナーのひぐち君にはお仕事として依頼して。オレとのスパーリングをやってもらうために呼んだのに他の人と対戦して『ちょっとごめんなさい、疲れたんで出来ません』て言われたことがありました。それはふざけんなよって言ったのは覚えてます(笑)」
    それだけ切羽詰まっていた。並々ならぬ決意で臨んだ最終戦は「7-0」という完勝。大舞台で借りを返すことに成功したときどには惜しみない賞賛が送られた。負けた経験を活かしてやり返せたことに本人にも大きな満足感があった、その時は。
  • // Chapter 2
  • 「CAPCOM PRO TOUR」やその総決算である「Capcom Cup」、世界最大のトーナメント「Evolution Championship Series(EVO)」等々。「ストリートファイターⅤ」を主戦場にするプロゲーマーにとって多額の賞金がかかった大規模大会には事欠かない。

    勝てば名声と多額の賞金を手にすることが出来る大規模大会に比べ「獣道」は異質な空間だ。会場や演出の規模は小さく、ファイトマネーもたかが知れている。
    何より異なるのはそれがリスクマッチであること。勝てば何かを得る舞台であるが、それ以上に負ければ失う舞台なのだ。
    トッププレイヤーとして充実したプロ生活を送るときどにとって「獣道」のデメリットはメリットを大きく上回るようにも見える。彼にとって「獣道」とはどんな舞台なのだろうか。

    「ウメハラさんが本気出してくれる場所ですね」
    リベンジの大舞台であった「TOPANGAチャンピオンシップ」は「本気」とは少し違うのだと語る。しかしウメハラ自身にとっての優勝もかかった最終戦であり、本人もきっちり敗北は認めている。やはりそれは「本気」だろう。
    「いや本人はそう言いますけど(笑) オレはそうは思わないですけどね」
    「獣道2」で感じた何かがそこにはなかった。ときどにとってはそういうことなのだ。
    「じゃあ言い方を変えましょうか。『獣道』はウメハラさんにスイッチを入れてくれるというか」

    「だからトパンガ(TOPANGAチャンピオンシップ)でモノにしたって感覚は今はないですね。駄目なんだなって感じです。『獣道』の借りは『獣道』でしか返せないんだなって」
    「TOPANGAチャンピオンシップ」の優勝決定戦は自力で持ち込んだ大舞台であり、何恥じることのない準備と戦い振りだった。だが本人にとって「獣道」での敗北を埋め合わせたのかと言えばそれも微妙に違う。ここまでやっても駄目なんだなと、逃した機会の大きさをあらためて感じさせられたと語る。

    「負けたら『獣道』は出禁」。どこまで本気かは分からないが配信やPVで主催者のウメハラは過激に煽っている。一度は敗れているときどが「獣道」へ二度目の参戦を決意した動機は何なのだろうか。
    「そのウメハラさんに言われたからですよ(笑) オレは「獣道2」で対戦相手のウメハラさんに直々にお願いして受けてもらったっていうのがあって。オレはそこに信頼関係みたいなのがあるから「獣道4」をやるって応えたつもり。そういう背景がオレの中ではありますね」

    ウメハラの煽り文句「負けたら出禁」は初めて聞いたというときど
    「負けた奴だってそれでもゲームってやると思うんですよ。負けたからといってねえ。そっから変わってプレイが伸びるってあるじゃないですか? それでも駄目なんですかね?」
    「獣道2」敗北後のときどが参戦するだけの実績を積んでいるのは誰の目にも明らかだ。そう思わせるだけの何かがなければウメハラも打診はしないだろう。

    ウメハラとの「獣道」での再戦について思うところはあるのだろうか?
    「まずは「獣道4」のカワノに対して集中しないといけないんで。ただその結果如何でウメハラさんがまたスイッチ入れてくれるんだったらそこはプラスですよ。ただそれは向こう次第なんで。入らないならそれはもうしょうがないと思います(笑) これまでもオレは入れさせるために結構色々やってはいるつもりなんですけどね」
    色々やってきた。それはプロゲーマーとしての結果を粛々と出し続けてきたことだ。
    「敗北以来ちゃんとその、存在感があるようにやってきているつもりなんですよ。スイッチ入るかどうかは本人も狙って出来る感じじゃないんでしょうね」

    まずは自分がしっかりすること。その上で道が交わればといった感覚のときど。再び自分から挑戦を叩きつけるという選択肢はないのだろうか?
    「いや、それはまだまだ言えないでしょう。こっちは負けてんですもん(笑)」
    自分から言えるようになるのはまだ先の話。そういったことも今後のモチベーションになるのであればそれもまた良し。今のときどにはそういう余裕もあるようだ。
  • // Chapter 3
  • 「獣道2」以降のときどには「ストリートファイターⅤ」における二つの大きな変化があった。一つは操作デバイスをレバーレスコントローラーに変えたこと。もう一つが使用キャラクターの変更である。
    今回行われる「獣道4 ときど(ユリアン)VSカワノ(コーリン)」。彼が使用するユリアンは2020年の夏頃から本格的に使い始めたキャラクターだ。

    「元々は2019年の『ストリートファイターリーグ: Pro-JP』がきっかけです。サブキャラが必要なルールだったのでそれなりのレベルになるまで練習しました」
    ユリアンは「シーズン1」と呼ばれる初期のタイミングで参戦したキャラクターだ。別タイトルではあるものの「ストリートファイターIII 3rd STRIKE」で過去に使用していたこともあり馴染みはあったと語る。

    それまで使用していた豪鬼からユリアンへのキャラクター変更を決定づけたのは、前述のウメハラを倒して優勝した「第1期 TOPANGAチャンピオンシップ」だった。
    「あの大会はそれまでは珍しかったPC版で行われた大会だったんです。操作感覚が全然違ってて。今後、それまでの家庭用ハードからPC版がスタンダードになるなら攻略から何から見直す必要があると思いました」
    大規模大会では性能が同一のハードを相当数集める必要がある。そういった事情もあり、それまでの大会におけるスタンダードは家庭用ゲーム機「PlayStation 4」版だった。しかしこのコロナ禍で大人数が集まる大規模大会は難しい。技術差が可視化されやすいと言われるPC版がプロシーンでのスタンダードになるのは自然なことだった。

    「そもそも『PlayStation 4』版でもアップデートする度にレスポンスはPC版に近付いていたんです。その部分で前から自分の中に疑問があって。このまま行った場合にダルシムみたいな対応重視のキャラクターが合っているのか、それとも豪鬼みたいな相手を崩すキャラクターが合っているのかって。結論としてはPC版が主流になるのであれば豪鬼の特性はプロ同士の試合では活かしにくいんです」
    ハードが変わればその特性に合わせた攻略が必要になる。キャラクター変更もその一つ。しかしユリアンは新規参戦のキャラクターではなく、初期の段階で追加されたキャラクターだ。その様な使い込まれた既存のキャラクターを後追いで使用して結果を出すのは簡単ではない。
    「自分で使ってみた時に可能性が残されたキャラクターだと感じたんですよ。もう少し引き出せるものがあるんじゃないかって」
    後追いだったからこそ見えるものもあったのだろう。先行しているユリアン使いからも一目置かれるレベルに仕上げて、プロシーンでもトップクラスの結果を残すまでになった。

    ときどユリアンの成長についてはウメハラも認めるところだ。
    ウメハラ「プロゲーマーとしてシーズン通して戦うことを考えてのキャラ変更なんでしょうね。一年ちょっとで凄い仕上げた。ときどならこうなるよねっていう感想でもありますけど(笑)」
    その上で「獣道」のような勝負への影響を語った。
    ウメハラ「ユリアンで勝っているんだけど『獣道』みたいなギリギリの勝負になると歴の差も無視出来ない。オンリーワンという点については年季の入った豪鬼の方が上だった。ときどとやらないとときどの対策が立てられない。カワノとしては豪鬼だったら絶望的、ユリアンだったらっていうのはあるはず。ユリアンはその強さが長年マークされてきたキャラクター。対策する側の蓄積がある。ときどの影響を受けている練習相手のユリアンにも事欠かない。そこをときどはどうするかですね」
    何年も使い込んだキャラクターに較べれば、どうしても「オンリーワン」であるという点では限界がある。「獣道」という特別な舞台への準備でそれをどれだけ積み増し出来るのか。勝負の鍵はそういった面にもあるようだ。
  • // Chapter 4
  • 「プレイのクオリティが高いっすよね。いち早くレバーレスを習得して周りと差をつけてる。そこも凄いなーって」
    「獣道4」で対戦相手となるカワノは、この二年ほどで一気に頭角を現したプレイヤー。キャリアのあるプロゲーマーが使用を躊躇しているのを尻目に、レバーレスコントローラーへいち早くコンバートした。緻密なプレイを得意とするカワノへのときどの評価は非常に高い。

    「発想も良いですしギリギリチャレンジ出来るところをしっかりやってくる。何処まで踏み込めるのかとか、弱攻撃ガードさせて次に弱攻撃当ててたらちゃんと繋ぐとか。そういう脳にストレスがかかるところもしっかり練習してるなっていうのは見て取れますよね。精度は高いです」
    トッププロの精度は誰に限らず高いが、カワノはその中でもはっきりと差があると語る。
    「それはもう全然です。カワノは本当に良くやってますよね、オレもそういうところ好きなんで分かるんですけど。練習すればするだけ見返りが帰ってくるようなところ。そしてオレが手薄なところもしっかりやってる可能性は高いんじゃないかな。実際には分かんないですけど」
    トッププロの能力に大きな差はない。それぞれが全てを高水準でこなしている。だがそれだけではやはり上位足り得ず、そこにはプラスアルファが必要なのだ。カワノの持つ「精度」という武器はそういうレベルのもの。ときどは「共感の持てる強さ」でもあるとそれを評価している。

    「真面目だなと思います。ゲームに対しての考え方とか。多分、他の人に比べて考えている時間が長いんじゃないですかね」
    コロナ前は対戦会で対戦し、意見交換をすることも少なくなかったという。
    「プレイの内容がまずそれを示しているのと、攻略の話とかしてても結構考えてるなって。俺が辿り着いてる問題意識や解決法、そういう話があったりするんですよ。そこまで考えてそこに気付いてるんだみたいな」
    食事に行く等の個人的な絡みは余りない。パーソナリティは「お互いに全然分かってない」が格闘ゲームに真摯であるという点はひしひしと感じているという。
    「筋トレとかしてるらしいんですよ。フットワークは軽いんだろうなって思います。ゲームのためにやってるのかは分からないですけど、多分やってるんでしょうね。そういうところまで気にしてやってると」
    フィジカルの体調管理はときども大いに気を付けている点だ。画面外に目を配ることも含めて「共感が持てる強さ」なのだろう。

    ときどの使用キャラ「ユリアン」とカワノの使用キャラ「コーリン」の戦力を分析してもらった。
    「組み合わせとしてはオレはユリアン有利だと思います。5.5はないかもしんないですけど、やってる感じ5.1はありますね」
    49対51でユリアンが最低でも有利という意味だ。ときど自身がコーリンを使用して感じた相性でもある。
    「コーリンの使い手である水派にも協力してもらいながら、自分でも使ってます。逆の立場をやることで良い発見があるので。それを踏まえた上でのユリアン有利って感想です。組み合わせはともかくコーリンは自分でも使ってみたらめちゃくちゃ強いなって思いました。動かしやすいキャラなんで分析がやりやすいってのはありますね」
    若手のプロゲーマー水派に協力を仰ぎつつ検証を試みているが、対策を相手任せにすることは出来ない。
    「懸念してる点はやっぱレバーレスかどうかですね。水派がレバー(アケコン)なので。その差は意識してやってます」
    「殴られて覚えた」特定の相手との戦いにおける仕上げ方。ときどの対策は抜かりなく進んでいるようだ。
  • // Chapter 5
  • 今年最も波に乗っていたプレイヤーであるカワノ。その挑戦を受ける形となったときど
    ときどにとっては勝てば「獣道」での敗北をリセット出来る。マイナスをプラスに出来るかはともかくゼロに戻す。考えようによってはそういう戦いでもあるのかもしれない。

    決戦も差し迫った12月半ば、心境を語ってもらうと意外な答えが返ってきた。
    「いや、あの、プラスにならないですよ。ゼロにもなんないです(笑) 決意も何も正直負けない相手だと思ってるんで。あ、こういうコメントしていいんですかね? アイツはいいプレイヤーだと思いますけど。たかだかこんな短期間でちょっと勝ってっていうくらいで。だから正直それでやるってどうなんだと。ウメさんもそれ受けんなよって思いますけどね」
    ほぼ手放しといった感じでカワノを評価をしていたときどだが、それとこれとは話が違うと言う。
    「え、だって(笑) 技術的なところでは上手いですよ。いや流石に差があるじゃないですか。最後に対戦したのが7月のTOPANGAチャンピオンシップ(第3期TOPANGAチャンピオンシップ)だとして半年経ってないですよね? そこで総合力が問われるようなルールでひっくり返されようがないんですよ」
    男子三日会わざれば……という諺もあるが。
    「仲のいい参謀とかがいて不足を彼に言って聞かせてあげられる人がいれば短期間で変わりかねないとは思います。どっちにしろオレに気の緩みはないですよ」

    「最初は『オレまた出ていいんだ』って感じでしたね。今はもうやる気満々ってとこまで来てます」
    参戦オファーからしばらく、カワノとの決戦について最初はイメージすることが難しかったという。
    「ウメハラさんから言われて受けましたけど、対戦相手のカワノからは何も言われてないんですよ。オレは対戦相手のウメハラさんに直接頼んだのになあっていうのはあります。オレの感覚からするとそこは直接あると良かったんだけど。だからそこは信頼関係のない者同士の対決ですよね、今回は」
    この試合に並々ならぬ気概を持っていること。ときどを超えるべきプレイヤーだと感じていること。勝ちへの手応えと自信を感じていること。そういったカワノの思い。それを伝えるとときどはこれまで知らなかったと答えた。
    「そういうカワノの意気っていうか、言われないと分かんなかったですね。……多分、気付いてないんですよ、本人が。本当に行けると本気で思ってるんです。不気味ですね、そこまで行くと」
    それは根拠のない自信が怖いという意味だろうか。
    「オレはそういう意味で言ってます。……ウメハラさんみたいにスイッチを入れる余力はないけどオレはハイペースのマラソンを走り続けている感覚でやってきてる。彼がそれに見合った努力をしてると思っているならそれは違います」

    これまでの修羅場と修練の積み重ねがときどの中に圧倒的な確信を生んでいる。それが揺らぐことはないようだ。ときどに「負ける要素は無い」のだろうか?
    「ないですね。今どうやったら負けるんだろうっていうことを日々模索してます。何があったら負けるんだろう?っていう。……体調管理ですかね。自分に原因がない限りは大丈夫です」

    「獣道2 ときどvsウメハラ」。あの時、絶好調のときどに対して「オレに挑戦するのはまだ早い」という風情のウメハラだった。そのときどが絶好調のカワノの挑戦を受ける。歴史は繰り返すのか、それとも―?
    「獣道4」メインイベント。勝ち残るのはいずれか一人だ。
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