Behind the Story

12/25/2021
SUPER STREET FIGHTER 2X
Grand Master Challenge
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  • ユウベガ
  • 中身は今でもゲーム小僧なんで。見た目はおじさんですけれど
  • // Chapter 1
  • ユウベガ。40歳半ばの一般企業に勤めるサラリーマンである。スマートな外見に丁寧な物腰。インタビューにおいてもそれは変わらない。
    しかし、である。そんな彼がゲームセンターでは別人に豹変するのだ。負かされた相手をひたすら追いかけ回してやり返す無類の負けず嫌い。本人曰く子供の頃から「ゲーオタ」であり「精神的には変わっていない」と語る。

    「いやーオレなんかでいいのって? もっと面白いのいそうじゃないですか(笑)」
    「獣道4」への出場を打診されたユウベガはそう思ったという。こたか商店との対戦相手候補に彼の名前が挙がった時に、ウメハラがそれほど迷わずにゴーサインを出したことには理由がある。それは過去の対戦経験を通じてユウベガというプレイヤーに信頼を持ち得ていたからだ。

    20年ほど前のことだ。当時大阪在住だったユウベガはホームゲーセンである「「長瀬UFO」」の常連達と東京遠征を敢行。事前にウメハラと約束を取りつけて対戦したという。それがウメハラとユウベガの初めての対戦だった。
    「あーやったねえ、ウメハラのガイルと30番やって12-18でオレが負けた(笑)」
    星に関わらず30戦やって15-15なら引き分け。そういうルールだった。スト2コミュニティ随一の負けず嫌いだけあってそこはしっかり覚えていた。

    きっちりと数を決めて対戦したことをウメハラも覚えていた。
    ウメハラ「ちょうどオレが『そういう勝負』をやり始めた頃なんですよ」
    「そういう勝負」とは試合数や勝利条件を決めて対戦すること。ゲームセンターでの対戦はただ乱入を繰り返して互いの優劣を測るという形になる。何らの取り決めがなくても優劣は浮き彫りになるものだ。だがそれはあくまで当人同士のことであり、どうとでも言えてしまう。そういう側面もあった。

    ウメハラ「カプエス2で負けて余裕がなくなったんでしょうね(笑)」
    「ヴァンパイアセイヴァー」「ストリートファイターZERO3」「CAPCOM VS. SNK MILLENNIUM FIGHT 2000」公式大会三連覇という前人未踏のウメハラの実績。
    そこからの四連覇がかかった「CAPCOM VS. SNK 2 MILLIONAIRE FIGHTING 2001」通称「カプエス2」の全国大会は彼のキャリアにおける集大成となるはずだった。しかし並々ならぬ思いで臨んだその舞台でウメハラは敗北を喫してしまう。ダメージは大きかった。

    ウメハラ「ネットもないし戦績が公にならない。それを良いことに吹聴する奴がいるのが嫌だったんですよ」
    カプエス2全国大会で敗北するまでは何を言われても平気だった。公式大会3連覇という圧倒的な実績が生む余裕。それがなくなった。
    ウメハラ「看板がなくなって放っておけなくなった。吹聴する相手を厳しく取り締まるみたいな(笑)」
    その時期は様々なタイトルでルールを決めて勝負した。自ら遠方まで出向いたこともある。行き帰りの道中にある地方においても下車して対戦した。まさに征伐という意味での「遠征」である。

    チャンスで一気に倒し切る力強さ。どんな劣勢でも虎視眈々と機会を待つ胆力。一見すると無茶にも見える大胆な駆け引き。ウメハラが実際に対戦して特に感じたユウベガの強さはそういった根源的な部分だった。
    ウメハラ「最初の時は勝てたけどユウベガさんが東京住まいになってから対戦しても全然勝てない。ずっとスト2一筋でやっているのがアイデンティティとはいえ強いなと思った」
    対戦したからこそのユウベガへの信用があった。だから「獣道」への抜擢も迷わなかった。

    ウメハラ「オレはそういう時と場所と数を決めてやるのが得意。自分でも『何でこんなに勝てるのかな』ってのはあって。インフィル(*)がきっかけで『こういうのオレ強いな』って何となく思ってきた。競技化してそういう果し合いする必要が少なくなったけど、原点はあそこにあるなって思い出しましたね。当時のあの経験がいわゆる「10先」の元になったんですよ」
    「獣道」のルーツ。そこでユウベガとウメハラは出会っていたのだ。
    *「MAD CATZ UNVEILED JAPAN ウメハラ vs Infiltration」 2013年9月20日、東京ゲームショウで行われた「スパIV AE Ver.2012」10試合先勝マッチ。
  • // Chapter 2
  • 幼い頃からゲーム少年だったユウベガがスト2の対戦に目覚めたのは高校生。故郷、石川県のゲームセンターで熱心に対戦をしていたという。
    「通ってたゲーセンは石川で一番強い人が集まるお店でした。でも常連のグループとはぜんぜん知り合いじゃなかった。ずっと一匹狼だったんで」

    同じゲームセンターで対戦している者同士が声をかけ合うことでコミュニティが形成されるのは自然なことだ。対戦相手は倒すべき存在であると同時に同好の士。SNSどころかそもそもインターネットすらなかったのだから、ゲームセンターという「現場」での交流はプレイヤーにとって得難いチャンスでもあった。
    しかし「つるむのが余り好きじゃない」ユウベガにとって「ゲーセンは対戦するところ」であり、それ以上でも以下でもなかった。彼のようなプレイヤーもまた珍しくはなかった。一人で遊ぶ人間をそれはそれで受容する。ゲームセンターはそういう空間でもあったのだ。

    「『外伝』に出たじゃないですか。あのDVDで俺の顔を見た当時の常連が『見たことある!』ってなったみたいです」
    「ストリートファイター外伝」とは2005年に行われたウメハラプロデュースのスト2イベントである。実力派の有名プレイヤー16人による招待制のトーナメント。招待選手の一人としてユウベガも出場した。
    当時はライブ配信で対戦を楽しむのが当たり前の時代ではなかった。観客なしのクローズド大会であり視聴はDVDソフトの販売のみ。ウメハラプロデュースということもあり、スト2プレイヤーのみならず他タイトルの格闘ゲーマーからも注目されたこのソフトを当時の常連達も視聴していたのだ。
    「スト2を続けていたら彼らと再会して。『あーっ! あのゲーセンに居たよね? 外伝で見たよ』って。それまで名前も知らなかった」
    一緒に遊んでいたのに口も聞かず名前も知らない。地元石川で対戦していた頃から既に十年以上の月日が経過していた。まこと当時のゲームセンターらしい出会いである。

    大学入学を機に地元の石川を離れたユウベガは大阪へ。その大学の近くに「長瀬UFO」が存在していたことが運の尽きだった。スト2のメッカともいえるこの店舗に出会ってしまったことで、ユウベガは終わりのない対戦への沼に引きずり込まれていく。
    「入試の日に見つけたんですよね。試験終わってホッとして。やたらゲーセンの多い商店街だなと思って入ったら1クレ20円でスト2が8台4セット。20円てあまり無いじゃないですか。だから色々な人が集まってくるし」

    「長瀬UFO」。数多の強豪を生み出した名店である。ユウベガ、兄ケン、オトチュン、コモダ、つーじー、シューティングD まやこん...。いずれ劣らぬ名プレイヤー達が毎夜毎夜対戦を繰り広げていた。スト2ブームはとうに終わっていたが「「長瀬UFO」」だけは違っていた。この対戦相手の質と量が日本屈指の環境でユウベガはメキメキと腕を上げていく。

    「長瀬UFO」においても「互いに顔は知ってるけどつるむでもなし」だったという。だからといって互いの存在を意識しないではなかった。思うようには勝たせてもらえない。「あいつ強いな」そう思えるプレイヤーが何人もいた。

    ある日、他所の大会へ行くと長瀬のプレイヤーと出くわした。見知らぬプレイヤーばかりの場所で自然と仲間意識を刺激させられたのだろう。どちらともなく話しかけた。それをきっかけに「一匹狼」のユウベガも少しずつ口を利くようになったという。
    「学生だから金がないんですよ。1プレイ20円でも負ければすぐなくなる。仕方ないから常連から借りて仕送りで返してた」
    ちょっとした貸し借りをするくらい常連達と仲良くなっていた。密度の濃い対戦を閉店まで続け、その火照った心を冷ますように閉店後の店先で皆と語らう。そんな日々もまたありふれた風景になっていった。
  • // Chapter 3
  • ユウベガのファイティングスタイルは一言で言えば攻撃的。対戦相手にプレッシャーをかけ続けて隙を誘い最大火力を叩き込む。スト2プレイヤー屈指の逆転力の持ち主であることに異論を唱える者はいないだろう。使用キャラであるベガの高火力を存分に活かしたスタイルともいえる。

    洗練された攻略にも余念がないがここぞの場面では理屈よりも感性。それなりの経験を積めば躊躇を伴うであろう選択もリスクを厭わず決断する。
    例えば「ホバーキック」という技がある。一画面分にせまる移動距離を持つ大技であるが、ガードされれば大反撃は必至。ベガの代名詞ともいうべきこの大技をユウベガはここ一番でヒットさせる。
    「簡単に言うと勘。何で当たるかっていうのかは相手の癖を何となく分かってるんでしょうね」

    ある時期までベガを使用するプレイヤーは「ユウベガかそれ以外」という時代があった。当時のユウベガのスタイルは俗に言う「人読み」を主体とするもので、極めて属人的なセンスに依拠していたといえる。他のベガ使いが図抜けた実力のユウベガを参考にしようにも、何をどう真似れば良いのか分からないのだ。
    決断すべきタイミングは一瞬でそれを間違えると一気に奈落。「長瀬UFO」という過酷な環境で身に付けた戦場の斬り覚えとでも言うべきその呼吸は、いわゆるキャラ攻略とはまた別次元の切り口である。一朝一夕に真似られるものではなかった。
    「結構ね、長瀬時代に兄ケンの影響受けてるんですよ......。よく言ってましたよ、迷うと負けるからって」
    ユウベガが「タイプ的に近い」という兄ケンから学んだこともいわゆる攻略ではなかった。
    「迷って躊躇してオトチュンのスーパーコンボ食らって負ける。それ横で見てたから、あー迷っちゃいけねえんだーって思って」

    状況が変わったのは2000年代半ばだった。「タイラベガ」の登場である。横浜出身で当時としては若手のニューカマーだった。物怖じすることのないイケイケな性格とは裏腹に、それまでなかった論理的で体系付けられた攻略を中心に据えたスタイルを構築。当時のベガ使い全体のレベルを一気に引き上げた。いわばユウベガとは真逆のアプローチで、ベガ使いの双璧に駆け上ったプレイヤーである。

    「当時のムテキ君に言われましたもん、タイラ君の方が強いって。実際そう。勝率見てもタイラ君の方が勝ってた」
    対ベガ戦のスペシャリストであるムテキガイル。「野試合だと普通に負け越し」していたその相手へのタイラの勝率はユウベガを上回っていた。
    「正直ね、タイラの攻略はかなりパクりましたよ。あいつ自身にも教えてもらった」

    ベガというキャラクターのレベルを一気に引き上げたタイラの攻略。多くのプレイヤーから参考にされたそれをユウベガも積極的に取り入れた。
    「手前味噌ながらあいつが出てきてくれたお陰で、ずいぶん自分自身もパワーアップしました」
    現在も新たな工夫に余念がない。再構築されアップデートされ続けているガイル戦に関しては「昔とは全然違いますよ」と語る。

    年齢やキャリアに関わらずライバルを認め、それまでの自分を支えてきたスタイルに拘らない。
    「良いとこを取り入れてアレンジしてやる」。荒々しく見えるスタイルや負けず嫌いばかりが喧伝されがちなプレイヤーだが、その裏にある柔軟な姿勢がもう一つのユウベガの大きな武器なのだ。
  • // Chapter 4
  • 「何か自分で考えて。解決方法を編み出してそして次に備えるっていうか。みんなそうだと思うんだけど、オレそれが出来ないんですよ」
    自身の「最大の欠点」は「自分で考えて0から1っていうのを出来ない」ことだと語るユウベガ。多かれ少なかれ自分で考える能力がなければトッププレイヤーになれる筈もないが、本人の主観ではそういうことらしい。そんな彼の「最大の美点」はその傾聴力だろう。いわゆる聞く力。それは本人の語る「最大の欠点」と表裏一体のものだ。
    「出来ないから。だから色んな人に聞いて。自分で気付けないから気付かせてもらってるんですよ」

    「1.すぐに 2.相手を選ばず 3.素直に聞く」
    ポイントをまとめるとこのようなところだろうか。試合が終わり負けて退席すると誰彼となくつかまえて聞く。聞く相手は「対戦相手じゃなくて後ろで見てる人」が一番良い。対戦相手は「意外に分かっていない」ものだという。

    「負けるじゃないですか。連敗して『今の見てた?』って」
    周囲も慣れっこになっているので時には「見てなかった」とはぐらかされることもあるらしい。集うプレイヤーもそれぞれ自分の対戦で頭が一杯なのだがら致し方ないことだ。それでも「でも少しは見てたでしょ?って。教えてよ、なんか悪いことなかった?」としつこく食い下がる。
    「聞いても『悪いことしてないんですけどねえー』って。『いや悪いことしてるから負けてるワケだからさあって。何でもいいから言って』って。そこまで聞くと何か出てくる(笑)」
    中々にいい迷惑である。あるのだが、ここまで教えを乞われて嫌な気持ちになる人間はいないだろう。根負けして答える仲間の苦笑いが見えるようだ。余りにもそれが日常化しているので「冗談で情報料くれって言われる(笑)」こともしばしばだという。

    スト2のような旧作の環境は相対的にプレイヤー人口の絶対数が少なく、様々なレベルのプレイヤーが一同に介して対戦する環境である。スト5のような現在進行系のタイトルであれば同格のプレイヤーには事欠かないが、それは望むべくもない。
    それでも相手のレベルを気にせず広く意見を求め、それをまずは素直に受け入れる。何処にヒントがあるか分からないからだ。
    答える側からすればどうか。相手が本気である以上は余りいい加減なことは言えないし、同時に頼られる嬉しさもあるだろう。自分なりに考えてきちんと答えようとする筈だ。分析した対戦内容を相手に伝わるようにアウトプットする。自分自身の対戦でこそするべき作業だが、他人の対戦だからこその気付きがあるかもしれない。そのような検証の訓練にもなるだろう。質問した側はもちろん質問された側にとっても少なからずメリットがある。

    「みんな聞かないですよね? 何か負けてても......」
    言われてみれば他人に意見を求める人は存外少ない。対戦とはいえゲームだから自分が好きなように遊びたいという向きもあるだろう。古いゲームをわざわざ選んで遊ぶとなるとそれは尚更かもしれない。

    「獣道」主催者のウメハラは「オレは元々は素直に聞けないタイプ」だと語る。そんな彼が他人の意見を受け入れるに至ったのは「そこまでやったから」だ。
    ウメハラ「そういう性格だからまあ最初は自力でやろうとする。でもやってもやっても上手くいかない。途中で駄目だなってなってくる。くたびれるまでやるんですよね。そうなると素直にならざるを得ない。もう聞いていいよねってなる(笑) ......ゲームはもちろん麻雀の時もそうだった。色々自分なりに考えてやるんだけどなんか壁があるなあって。それで師匠に聞いた。そっからはもう素直に全て受け入れた」
    そうせざるを得ないところまで、「くたびれるまで」やる。らしいと言えばらしい。
    ウメハラ「ユウベガさんが元々そういう性格なのか、気付きがあったのかは分からないけど。聞けるのは一つの武器だと思います」

    聞く姿勢について他に似たような人はいないのだろうか? するとユウベガの口から意外な名前が挙げられた。
    「昔、ときど君のバルログと一回タイマンしたことあって。終わった後に『ユウベガさんすいません! この技はどうやって返すんですか!』って素直に聞いてくるんですよ」
    今回の「獣道4」にも出場するプロゲーマーときど。マルチプレイヤーだったアマチュア時代の彼が「闘劇」のストリートファイター2に参戦した時のことだ。あれには参ったと笑う。
    「あー似てるなって。こいつもそういうタイプなんだって。似てるから『わー、ちょっと苦手かも』って思った。やりづらいなって(笑)」
    「教えたがり」が揶揄される時代における「教えられたがり」のスタイル。これも上達の一つのコツなのかもしれない。
  • // Chapter 5
  • ガイルVSベガ。安定したガイル側の立ち回りに対して、火力のベガがどこで決定的なダメージを通すか。「ベガ側から仕掛けなきゃいけない」構図の対戦である。

    理外も含めたあの手この手でガイルの立ち回りを崩してきたユウベガ。「無理ゲーほど燃える」タイプでもある。そうは言っても「昔より対応が充実してる」ガイル相手に決め手が減っているのが現状のようだ。
    「ガイル有利だとは思うんですけど」と言いつつ「やりようはある」と不敵な笑みを浮かべる。家庭人であり多忙なサラリーマンでもあるユウベガ。それでも多ければ週に4日ゲームセンターに通って対策と練習に余念がない。

    対策について意識してることは2つ。
    1つ目のポイントは極力「色々な人と対戦する」こと。これまで出場した10先イベントにおいてもそこを重視してきたユウベガ。近年、エドモンド本田とイベントで戦った時には「ゆきのふ君、にーあーでしょ、永田さん、ナカムーさん......」いずれ劣らぬ実力者達に練習相手になってもらった。

    「同じ人とだけやっちゃダメ、絶対に」と語るユウベガ。今回の対戦相手であるこたか商店もそこを良く理解していたという。
    「こたかは色んな人とやってんですよ。オレまで呼び出されてDJ使ってくれって」
    「獣道2」における「こたか商店VSイトーDJ」。ユウベガにとってDJは半ば息抜きで使うサブキャラに過ぎない。そのユウベガまでもがスパーリングを要請され「100戦から200戦」をこなした。
    「オレだけじゃなくて色んな人色んなDJと。多分ねえ、それなりの人数とやってる」
    様々な相手と対戦することで得られる広い視点。「満遍なく満遍なくやって聞く」ことでそれを得るのがユウベガのやり方だ。
    これはプレイヤー人口の少なさに起因するレベルのばらつきも関係がある。最新のゲームのようにいわゆる最適解の集約がなされていない可能性があるので、多くの意見を集めて自分なりのベストの解答を導き出す必要があるのだ。

    2つ目のポイントは「甘え行動をどこまで意識するか」。こたか商店が甘え行動を許さないであろうことは、過去の「獣道」からも一目瞭然だ。不正解の選択肢はもちろん、一般的には正解とされる選択肢すら「甘え行動」となる状況さえ作り出すこたか商店。その高いハードルを意識して「テーマを持って」準備をしているという。

    「性格的に準備さえしてたらプレッシャーは感じない。今やれって言われたら心臓がバクバクする」
    本番に強いタイプであるがそれを支えるのは徹底した準備だ。
    「拮抗した人といざやろうってなったら準備しなかったら負けますよね。もともと天才じやないから。努力しなきゃ駄目じゃないですか......それだけですよ」
  • // Chapter 6
  • 長瀬の全盛期は「結局つーじーかオトチュン。たまに兄ケンかシューティングD」だった。現在こたか商店をはじめとする下の世代が台頭したことを「ひっくり返しに来たことが嬉しい」と語るユウベガ
    「だからふじもん、MAO、イトーなんかは嬉しい。ひっくり返しに来た。はっきりあいつらの方が強いじゃないですか。面白くなった、戦国時代みたいな」
    新世代との戦いが新たなモチベーションになっているのだ。「生涯現役」にはそれぞれの形があるが、これは実にユウベガらしい受け答えだろう。「ゲーム少年の頃と精神的には変わっていない」という若々しい感性がそこにはある。

    クリスマスも間近に迫った都内のゲームセンター「中野TRF」。そこでユウベガは最後の追い込みに入っていた。家庭と仕事、師走の多忙を縫ってゲームセンターでの練習に駆けつける。僅かな時間も惜しいのだろう。「15分ですよね?」と事前に伝えていた時間を確認して話し始めた。それだけ集中して「獣道」に臨んでいるのだ。本番で力を発揮出来るだけの手応えは掴めているのだろうか?
    「そこなんすよ、ホントに。そこをちゃんとやりたいんですよ。勝ち負けは後から付いてくるものだから」

    「向こうも同じこと考えてると思うんですよね。もう自分との戦いだと。何でかって言うとこれまでの「獣道」と全然戦い方のコンセプトが違うじゃないですか」
    こたか商店のこれまでの対戦相手は兄ケン(ケン)、イトー(DJ)、クラハシ(リュウ)。飛び道具の撃ち合いによるペース争いが骨子となる組み合わせばかりだ。
    対してベガは突進系と呼ばれるラッシュ主体の戦法となるキャラクターだ。自ずとこれまでの組み合わせとは違うやり方になる。
    「突進系を捌くっていう全然違う戦い方をしなきゃいけない。(『獣道』で)初めてでしょ。向こうの方が緊張してるんじゃないかな。……もしかして自分は負けるかもって。多分、心中穏やかじゃない。僕の方が落ち着いてると思います」
    キャラクターの相性はガイル有利の声が大きい。とはいえ「ガイルの方が高度な技術を求められる」組み合わせであり「火力が違う」ベガにとって実戦的な意味での戦力差は縮まるだろう。そういった感触をユウベガは持っているようだ。
    「緊張しないって言ったら嘘だけど、力を出せるように自分の中では調整してるつもりではいるので。まあよっぽどのことがない限りね、当日を迎えれば動かせると思います」

    複数の対戦台が用意された店内は、平日にも関わらず十名を優に超えるプレイヤーが集まっている。その活気はまるで往時のゲームセンターを彷彿とさせた。ユウベガの座る台にも代わる代わるプレイヤーが乱入している。使用キャラは全員がガイルだ。
    「感謝しかないっすよ、もう。ありがたいなって。自分に限らずああいう10先のイベントになると皆が積極的にサブキャラとか使ってくれる。(そういう文化がある?) うん、お互いに協力しましょうっていうのがありますね。ありがたいです。時間を削って来てくれてるわけですから、貴重な」
    ガイルで乱入していたプレイヤーの一人であるセオ。彼に話を聴くことが出来た。本来の使用キャラクターは春麗であり、その実力を誰もが認めるトップランカーだ。

    セオ「(ガイルは)メインじゃないんで対戦では力になれてないっすけど。トレモで調べたりして何か見つけたら報告するようにはしてます。動画撮って『こんなのありましたよ』みたいな」
    出来ることを考えて協力しているのだという。彼なりに思いがあるようだ。
    セオ「自分はメインが春麗なんですけど…一番最初に認めてくれたのがユウベガさんというか。ちょろっとユウベガさんに勝っちゃった時があって。そしたらこう、自分が行くとこ行くとこに(笑)」
    負けず嫌いのユウベガがやり返しに来た。それは自分の主観でしかないが「ユウベガさんにこんなに構ってもらわなかったら(スト2を)やってなかったかも」とセオは語る。
    セオ「やっぱ、こう……人に構ってもらえることないじゃないですか。何だろう、こんなに自分のこと対策して考えて来てくれてるんだと思って。それも単なるキャラ対策じゃなくて、このセオチュン(セオ春麗)をなんか……。こんな嬉しいことはないなって」
    自分に真剣に向かい合ってくれている。理屈抜きでそれが理解できる。彼らにとって対戦ほど濃厚なコミュニケーションはないのだ。

    ユウベガへの乱入は続く。乱入者が途切れても「ガイルの人いないの?」と誰からともなく声が上がり、すぐに別のプレイヤーがそれに応える。そんな惜しみのない協力が彼らの文化であることは確かだが、ベストを尽くそうとするユウベガの姿勢も無関係ではないだろう。それは彼が積んできた信用のようなものだ。
    自らを「つるむのが余り好きじゃない一匹狼」だと語っていたユウベガ。その彼は今、大勢の仲間に支えられている。

    そして一人の良き家庭人でもあるユウベガ。そちらへの影響はどうなのか。中年ゲーマーにとっては気になるところだろう。
    「協力してもらってるというか、もう呆れられてるって感じですけどね。昨日今日の話じゃないんで(笑) ちゃんと正直に教えましたよ。ちょっと恥ずかしかったけどPVの映像見せましたし。これお父さんだよーとか言って。(子供には)見てらんないって言われました。もう見てらんないって(笑)」

    こんなにも真剣に遊んでいる父の姿を家族はどう感じているのだろう。熱を持つことに年齢も性別も関係ない。熱があるからこそ物事は面白い。百の言葉よりユウベガの姿は雄弁だ。

    「中身は今でもゲーム小僧なんで。見た目はおじさんですけれど。まあだから、そういう若い時の頃をね、忘れず、保ちながら、バカになって、年末…大暴れしたいということで!」

    「生涯現役」のゲーム小僧。青春は、終わらない―。
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