On the Road Vol.2

04/29/2026
STREET FIGHTER 6
:: ストリートファイター6
Daigo vs MenaRD
獣道 The Beast vs The Bull に寄せて
覚悟、正しき資質
  • 人気とか抜きにね、ウメちゃんに勝って欲しいとかじゃなくって。『身銭切った勝敗予想して外したら財産半分』って言われたら何人の奴が自分に賭けるんだろうって。オレでも分かる ——
  • // Chapter 3
  • 意志では持てない、人の意志にそんな力はないです ——
  • 「STREET FIGHTER 6」の完成度と環境の充実は凄まじい。参加人数は桁外れ。自分のレベルに見合った対戦相手に困ることはない。強くなるためのノウハウや攻略はネット上でくまなく共有され、ランキングによって自分の位置は否応にも可視化される。オフィシャル、ローカルを問わず大会の数も多い。充実したプロツアー(CAPCOM Pro Tour)における大会は興行としても成立しており、視聴者も年々増える一方だ。競争のレベルは、かつてないレベルとなっている。

     競技化とエンターテインメントを両立させた、圧倒的な質量を誇る戦いのフィールド。これがウメハラの戦い続けてきた格闘ゲームの現在地だ。

    「自分でも周りから見ても(公式)トーナメントにはきちんと取り組んでやってます。でも(10先は)違います。発想まで変わる。例えば場面場面の対処法を考えるようなやり方にはならない。一本の道として繋がるようなことを自然に考えるようになってますね」

     プロとしての主戦場はプロツアーにおける公式のトーナメントだろう。それを軽視はしていないが、取り組みの質はまるで異なるものになる。それこそ攻略の考え方まで変化してしまうのだ。ウメハラにとって取り決めのある10先イベントはそういう舞台である。

    「同じ人間でもこんなに変わるんだな。自分のことなんですけど。やっぱりこういうのが好きなゲームの遊び方だったんだなって。それを知れただけでも本当に今回やって良かったなと思いますね。やっぱり危機感やワクワクを持った勝負じゃないと、自分にとっての本当の取り組みをやれなくなってますよね」

     MenaRD(メナ)との大一番に向けて日々黙々と準備に励むウメハラ。彼にとって勝負への本当の取り組みとは何なのだろうか。端的に言えばそれは「手段を選ばない」ということだ。

    「取り決めのある10先をやる時は必ずそうなります。勝ちゃそれでいいって思ってるんですよ、こういう形式の勝負は。だから当然プレイなんか見せないし、初見(殺し)だろうが何でもいい。それは自分にとって負けられない勝負だって思ってるから、そういうことする訳です。子供の頃のオレにとっては、オフィシャル全国大会のトーナメントがそういう勝負でした。それが過去形になっちゃってるのは、きっと若い時に(トーナメントで)勝ってしまったからなんですよね」

     少年時代のウメハラは「勝てばそれでいい」というタイプだった。45歳になった今でも、シビアな10先と向き合うとそんな地金が顔を出す。若い頃の自分に再会するような感覚。だが、この質の違いを自らの意志で生み出すことは絶対に不可能だという。

    「覚悟は気持ちの問題じゃない、状況です。意志では持てない、人の意志にそんな力はないです。そうだ、この感じだなって。こんな感じで俺はやってたんだなって。そのことを忘れてた。これくらいの真剣さで昔はやってたんだなということを(10先に取り組むと)気付かされるんです。……10先はやりたい気持ちもあるんだけど、やらないで済むならそれでいいじゃんって気持ちもある。やらざるを得ないからやってる。でも、そういう勝負を(本心では)求めてるんです。なんかちょっと矛盾するんですけどね」

     安全や立場を得て幾久しい。だが、手にした安全圏からは決して味わえないものがあったことにも気付いている。ギリギリでの達成や生還だけではない。敗北の味すらも懐かしく思う。今は何もかもが薄まっている。
    希釈された人生の濃度を取り戻そうにも、もはやそれは自らの意志だけでは成せるものではない。「状況」だけが、その濃度と向き合えるだけの覚悟を作る。

    「……オレ自身、もうこんなことは出来ないんだろうなって思ってたから。そしたら何にも、、何にも変わってない。またこの感じになれて本当に感謝してる」
  • // Chapter 4
  • 「これがレスポンシビリティだから」って。かっこいいですよね ——
  •  ここで対戦相手であるMenaRD(メナ)について言及しよう。差し迫る 4/29 決戦。そもそものきっかけは2025年の2月、MenaRD自身による「ウメハラさんへ」と題されたSNSのポスト。このウメハラへの呼びかけは、いささか唐突な面は否めなかった。
    Daigo vs MenaRD
     MenaRDは唯一のカプコンカップ(Capcom Cup)複数回覇者であり、誰もが認めるトッププロだ。そんな男が、知名度はあるものの近年さしたる成績を残せていないウメハラへ挑戦状を叩きつけた。eスポーツとしての実績を考えればアンバランス極まりないマッチアップだろう。見ようによっては何らかの憶測を呼んでもおかしくはない。

     一例として「モハメド・アリ対チャック・ウェプナー」という試合がある。最強の相手であるジョージ・フォアマンを破り、絶頂を迎えていたアリが初防衛戦に選んだ相手。それは実質的にはランク外の冴えない白人ボクサーだった。このアリにとっての余興は、挑戦者ウェプナーの愚直な奮戦により意外な展開を迎える。これが、あの「ロッキー」のモデルとなった。チャンピオンのアポロ・クリードは自らのビジネスの為に無名の若者を挑戦者に指名する。そんな、アメリカンドリームのチャンスを無名選手に与えるという筋書きからこの物語は動き出す。

     MenaRDウメハラ。少なくともどちらがアリやアポロの立場であるかは言うまでもないだろう。現役トップの一人であるMenaRDが、ウメハラ相手に何を今さら証明する必要があるのか? 勝ちに倦んだチャンピオンが珍しい肴を味わいに来たのか。落日のレジェンドを衆人環視の中で倒すことで、王朝の盤石を世に示すつもりなのか。憶測を呼ぶ、とは例えばそのような意味だ。

     だが、そういったMenaRDへの穿った見方を力強く一蹴する男がいる。奇しくも「獣道2 / Kemonomichi #2」でウメハラと戦ったときど、その人だ。

    「僕はSFLでウメハラさんと組んでいて距離が近いので、この10先についてメナとは一線を引いています。もしもメナの相談に乗ったりすると意図せずお互いの情報を流してしまうようなこともあり得ますから。ただ、メナの気持ちについて自分が思うところはあります。メナが試合してる壇上なんか見てると結構その、ちょっとヤンチャな印象を与えると思うんですよ。威圧的なパフォーマンスやすごい怖い顔とか。でもそれは彼の一面でしかありません」

     MenaRDとはプロツアーで何度も手合わせしている好敵手だ。それと同時にときどは、見習うべきプレイヤーとしてのリスペクトも持っているという。

    「彼は世界チャンピオンとしての振る舞いも立派で、業界全体にとってプラスの存在だと思ってます。でも最初からそういう風に思っていたわけではないんです。2018年にメナが10代でカプコンカップ勝ったじゃないですか。僕、大会終わった後に悔しくてメナの部屋まで対戦やりに行ったんですよ。そしたらドミニカの人達がお祭り騒ぎで。メナはそこで本当に祝福されてて。あの、、アメリカまで沢山のドミニカ勢が来るのは簡単じゃないはずなんです。それでもこれだけの応援団を引き連れて彼はやって来たんだなって」

     日本は対戦格闘ゲーム発祥の地であり、何人ものチャンピオンを生み出しているいわば先進国だ。ドミニカ勢の盛り上がりを肌で感じることで、ときどは恵まれた日本の環境では、つい見過ごされがちな価値を認識させられたという。
    MenaRDのリーダーシップからは学ぶべき点が多い。その姿勢はときどのプロゲーマーとしての在りようにも少なくない影響を与えている。

    「ドミニカに遠征したら渋滞の中を、メナ自らでっかい車を運転して日本勢を迎えに来てくれて。ビーチにも連れて行ってくれました。仲間と一緒に協力して僕らが何不自由なく過ごせるように取りはからってくれたんです。去年行った時は、ものすごい数の取材陣や遠征者への対応で一杯一杯になっていました。遠路はるばる来てくれたんだから、オレがやんなきゃなみたいに多分思ってるんですよ。本気で」

     ときどの印象は「仲間思いで優しい男」。そんなMenaRDの口癖として印象的だという言葉があるという。

    「よく聞く言葉がレスポンシビリティ(Responsibility)。責任っていう意味です。彼、つい先日も仕事で日本に来ていて。本当に休む暇もなくて大変だねっていう風に言ったら『これがレスポンシビリティだから』って。かっこいいですよね。優しい顔で言ってましたけどね。穏やかな顔で『レスポンシビリティ』って。……僕の解釈ですけど、色んな大会に勝ってその上でウメハラさんに挑戦することが、彼にとってのチャンピオンとしての責任なのかなって」

     チャンプとしての責任感。それがウメハラへの挑戦を決意させたと云うことか。いずれにせよMenaRDの当イベントへの思いは真摯なものであると、ときどは断言する。その理由はこういった長期戦への思いが、MenaRDの格闘ゲームへのルーツや動機に深く関わっているからだ。

    「そもそも彼がストリートファイター始めたきっかけはTOPANGA LEAGUEなんですよ。スト4の時ですね。これ熱いなって感じてくれて、それで本気で始めたみたいなんです。だから、TOPANGA WORLD CHAMPIONSHIPに出られたのは、とても嬉しいことだって言ってました。3年前ですかね。時代の流れもあって大会の役割も当時と変容しているとは思います。それでも出場したのは一番熱かった頃の大会が、やっぱりすごい印象に残ってるんでしょうね」

     TOPANGA LEAGUE(現「TOPANGA CHAMPIONSHIP」)は「ストリートファイター4」の時代、実質的なトッププレイヤーを決める役割を担った大会の一つだった。ルールの提唱を含め、その成立にはウメハラも多大な貢献をしている。今回の10先への思いはそういった部分も無関係ではないのだろう。

    「絶対に何らかの繋がりはあると思います。彼からは日本のゲームシーンに対しての大きなリスペクトを感じます。ウメハラさんはもちろん、昔からのプレイヤーに対してもそうです。……リスペクトと同時に闘争心もあるから、そこにチャレンジしたいとか、それを倒したいって思いがあるんだと思います。純粋なんですよ。今勝ってないオッサン倒してやるぜだとか、コケにしてやろうとか、そういうのは僕は全くないと思います」

     複数回の獣道を経験したときどMenaRDの想いを裏書きするのに、彼ほどの適任はいないだろう。何も心配することはない、MenaRDは本気だ。
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    Vol.1:ウメハラ、その軌跡

    Vol.2:覚悟、正しき資質

    Vol.3:終わりなき旅

    English

    Vol.1:Umehara's Path

    Vol.2:Determination and The Right Stuff

    Vol.3:The Endless Journey