On the Road Vol.3

04/29/2026
STREET FIGHTER 6
:: ストリートファイター6
Daigo vs MenaRD
獣道 The Beast vs The Bull に寄せて
終わりなき旅
  • 人気とか抜きにね、ウメちゃんに勝って欲しいとかじゃなくって。『身銭切った勝敗予想して外したら財産半分』って言われたら何人の奴が自分に賭けるんだろうって。オレでも分かる ——
  • // Chapter 5
  • 結局そいつに勝ちたいかどうか。オレはそれだけなんだなと思いました ——
  •  去る3月半ば、ウメハラMenaRDと直接会って話をしたという。本人からこの勝負に対しての気持ちを直接伝えたいと強く希望されたのがきっかけだった。その模様はウメハラの配信でも伝えられているので省略するが、是非参照されたい。この試合を観戦する上で欠くべからざる内容だ。
     「そう、『状況』なんですよ。あれだけちゃんと今の競技シーンに適合した奴が、わざわざこの10先を優先したいって言ってきた。高学歴のエリートが、会社を辞めてでもオレの会社で働きたいみたいな話ですよ。『いやウチは全然儲かってないけどいいのか?』『それでも働きたいです。キャリアを手放してでもやりたいです』みたいな話なんだと。少なくとも俺はそう受け取ったんで。そんな状況またいつ来るんだよ、って話なんで。やります。いや、本当にありがたいです」

     当代きってのトップ選手と、納得ずくの長期戦が行える。そんな類稀なる機会によって、妥協なき追求の日々を過ごしてきたウメハラ。一方で対戦相手であるMenaRDの心情については、あまり考えないようにしていたのかもしれない。本気や真剣といった感情にも濃淡がある。そして、それぞれの感情が釣り合うとは限らない。ウメハラの他力本願を嫌う性格が、相手への期待に蓋をしていた可能性はなかったか。そして、そんな彼だからこそ一層の嬉しさがあったのではないか。

     間違いなく言えるのは、若きプレイヤーの情熱がこれ以上ない「状況」を完成させたということだ。

    「格闘ゲームの才能って操作技術とか分析的思考とか記憶力とか、まあ色々あると思います。言うたらエンジンですね。エンジンも大事だけど、それとは別にやっぱり環境。きっと色んな世界であるんじゃないかな。やっぱりその時々の環境で、燃料満タンの奴らが時代を創ってるんだろうなって思うんですよね」

     ここ数年の競技シーンにおいて、プロツアーやSFL等のスケジュールに追われる日々を過ごしてきたウメハラ。それをこなす主たる燃料は、自らの立場への責任感と義務感が先立つものだった。真っ直ぐに己の好奇心と衝動を追求してきたゲーセン時代とは、その意味でも隔世の感があるだろう。

    「管理されて定期的に何かするっていうのが、あまり合ってないんでしょう、こういう機会があるとやっぱりね。面白そうな相手から突然呼び出されて何かするとか、次いつやるのか分かんないとかが、オレ好きなんだなって。本当に今回やって良かったなと思いますね」

     そもそもウメハラの物語は、ロクに学校にも通わずゲーセン通いをしている処から始まった。そんな集団行動に馴染むはずもない男が、現代の合理的・系統的なプロシーンに付いて行こうと律儀にやっている。それは少しばかり滑稽で涙ぐましい姿であるのかもしれない。当事者の悲劇は他者にとっての喜劇だ。

    「まあ思いますよ。気狂いだよなって。どうなるか分かんねえのに一番大事な十代をゲーセンつーか格ゲーに捧げて。明らかにおかしいでしょ。そんな奴がこの状況にきちんと適応できる訳ないじゃん、逆を言えば(笑)」

     物言いに屈託の影はない。それだけMenaRD戦への気持ちと準備が充実しているのだろう。つとに知られる漫画好きのウメハラだが、近年とあるキャラクターに親近感を覚えているという。

    「本部以蔵、オレ本部の気持ちすげえ分かるんですよね。なんかアイツ、超浮いてるじゃないですか。メインの最強トーナメントでもあっさり雑魚死して。その一方で死刑囚に勝ったり、自分より強いのを守ろうとしたり。空気読めてないっつうか。だからそのベースがね、そういう(最強トーナメントみたいな)デジタルのところにない感じがね(笑)」

     様々な個性が最強を競う格闘漫画「刃牙シリーズ」。この大ヒット漫画に登場する、とりわけ個性的な一人が本部以蔵だ。レギュラークラスのキャラクター達が闘技場等でそれぞれの腕っぷしを競う中、時流から外れた独自路線を貫くトリックスター。本部本人が真剣であればあるほど、その「空気の読めてなさ」は加速する。どこかユーモラスで憎めない存在だ。

     率直に言って、若き日のウメハラが感情移入するようなキャラクター性かといえば疑問は残る。それこそ、寄らば斬るといった雰囲気を纏いながら対戦をしていた時期の彼であれば、さほど興味のない存在だっただろう。彼の重ねた年月と経験がどんなものであったのかは、こういった部分からも垣間見えるのかもしれない。

    「やり切りたいんですよね、久々に。結局そいつに勝ちたいかどうか。オレはそれだけなんだなと思いました。だからいきなり良く分からない奴に10先やってくれって言われても、いくら強かろうがここまでの気持ちは入んないです。やっぱり格闘ゲームに対しての気持ちが純粋な奴じゃないと。あの時(獣道2 / Kemonomichi #2)のときどにも滅茶苦茶それを感じていたんで」

     あいつを倒したい——。

     整備された競技シーンにおいて、その感情はもう必須のものでは無くなってしまったのかもしれない。スケジュールされた大規模大会をこなす事に最適化するのであれば、非効率なこだわりとなる状況すらあるだろう。
    だが、やはりそれがウメハラにとっての原点なのだ。ただそれだけで楽しかった。ただそれだけが目的だった。全てはここから始まっている。ウメハラ、帰還せり。
  • // Chapter 6
  • 自分がどこまでこう、、行けるのかっていう気持ちがありますね
  •  ウメハラをオワコン呼ばわりする声はweb上を検索すればすぐに見つかるだろう。レジェンド扱いも底意地の悪い見方をすれば袋小路のロートルと同義だ。負けたらキャリアの終わりという声も大きい勝負。そういった怖さはないのだろうか?

    「勝負が怖いっていう風には思わないですよ。ただ早く当日が来て欲しいような気持ちと、来て欲しくないような気持ちがありますね。本当に毎日が充実しているので。続けられるものならずっと続けたいかな」

     逸る気持ち以上に、この充実した日々が続いて欲しい。何かしら試合への感情を読み取れないか。そのような意図も込みでした質問だったが、ウメハラの風情は淡々としている。

     これまでの10先その他の長期戦における大一番であれば「まあ楽しみに見てて下さいよ」といった自信をあけすけにしていたウメハラだ。それが、こと今回の試合における直接的、具体的な心情については余り感情を表さない。
    その後も、試合そのものへの意気込みについて、根掘り葉掘り聞くものの起伏は少ない。しつこく絡まれたのに閉口したのか、少しだけ重い口が開いた。

    「『戦う』っていう気持ちは同じなんだけど、(メナに会って)ちょっと意味が変わってきました。最後の最後、ギリギリまで考えて仕上げたいですね。もうこのやり方で良いだろうとは思わないように。手伝ってくれている人達が、自分と同じ気持ちで妥協なくアイディアを出してくれてるから出来ることでもありますけど」

     ウメハラMenaRDの意気を感じたであろうことは前述の通りだ。だが、意味が変わった処で何だというのか。勝つという目的も手段も、今さら何も変わるところはないだろう。しかし、行き着くところは「そいつに勝ちたいかどうか」という彼にとって、それはきっと、何よりも大切なことなのだ。

     相変わらずその表情は穏やかだ。ならばそれで良いだろう。時が満ちるまでは、想いの水位を上げ続ける。その寡黙こそが雄弁に彼の士気を語っている。事ここに至って何を語る必要もない。試合のことは、全て試合で語らせてもらう。そんな処ではあるまいか。
    おそらく今の彼はこれまでの大一番と同じかそれ以上に、試合を待ち望んでいるのだ。それは心躍る少年時代の記憶と無関係ではありえないだろう。

     手の合う相手がいる時期のゲーセン通いは、誰にとっても心弾む体験だった。今日はどう戦おう、こんなアイディアを試そう、あいつは来るだろうか、ゲーセンに向かう道すがら考えるのは例えばそんなことだ。自分が手痛く負けるなどとは露も思わない。店に近づけば自然と少し足早になり、ドアを開けば瞬時にゲーム音が響き渡る別世界が出現する。強者も弱者も、馴染みもそうでない者も、それぞれがそれぞれの理由で醸成させた期待を胸にコインを投入する。対戦し仲間たちと語り合う。ウメハラに限らない、どんな格ゲーマーにも平等に与えられていた至福。

     不安など感じる余地のない、胸踊る高揚感が全てに勝るあの心持ち。

    「(衰えたと言われようが)本気になったら負けないっていう自我が何処かにずっとあって、だから続けられているみたいな部分はあった。それを証明するのは、今がその時なんですけど、……ただ、こんな気持ちになれる条件が偶発的過ぎて。もうこんな10代の頃の気持ちでやれることは、もうないんだろうなって。だからこそ今回は自分がどこまでやれるのか、自分がどこまでこう、、行けるのかっていう気持ちがありますね」

     二度とあの場には戻れないという予感。この高揚は確実に終わる、おそらくもう経験することはないであろうという覚悟。自身にとっての最後の祭り。それを薄々感じているからこそ、試合終了までの残り時間をウメハラは夢中で味わっている。行く末を自覚した者の孤独と充実。

     梅原大吾に花束を ——。

     —— あのね、なんて言うんだろう。俺は格ゲーで食いたかったんじゃなくて、俺の好きな格ゲーをして食いたかったんだなって気が付いたんですよ。

     —— うん、だからオレにとってやっぱりなんか、対戦はコミュニケーションなんだなって思います。どこまで行っても。

     —— その、ゲームって子供の時は極端な話、神様から貰えてるぐらいの気持ちがあったんです。

     —— メナには本気でありがとうって思ってる。ね、いや、その、またこれを味わえて本当に感謝。

     かつて、そこは名もなき通りだった格闘ゲームの熱に惹かれて集まった者らが興じ感情を震わせたその場所は、今や賑わう往来へと変貌を遂げている。新しきが古きを駆逐し、時代は移ろう。万物流転。ここに一切の例外はない。果たして今がその時なのか、そうでないのか。変わりゆくものは何か。そして変わらないものは何であるのか。誰も知らない結末が我々を待っている。

     —— 人気とか抜きにね、ウメちゃんに勝って欲しいとかじゃなくって。『身銭切った勝敗予想して外したら財産半分』って言われたら何人の奴が自分に賭けるんだろうって。オレでも分かる。戦績を考えた時に誰だってメナに賭けるっていうのが分かるから。でもオレだけはもう知ってるのよ、オレのことを。だからすごいワクワクしてる。

     自分が自分を知っている。いざ行かん、待ち望んだ未踏の果てへ ——。
  • text by Maki Tomoi
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    Vol.1:ウメハラ、その軌跡

    Vol.2:覚悟、正しき資質

    Vol.3:終わりなき旅

    English

    Vol.1:Umehara's Path

    Vol.2:Determination and The Right Stuff

    Vol.3:The Endless Journey